(2008年ごめんなさいWD企画)


注意)

少々下品な単語が無邪気に出てきます。

推奨:「コロコ●コミックって面白いよな」と思える精神が未だ健在の方














生まれて初めてチョコレートを作った。というか、溶かして固めた。
途中、ただ固めるだけなのも芸がないなと思い節分の時に余った豆を混ぜてみた。

どうかあなたが健やかでありますように。

後付ではあるが、そんな願いを込めたのだ。

チョコレートは食べやすいようにと適当な大きさに丸める。甘いものが苦手だとは聞いたことはないが、その逆もしかり。
(・・・食べてくれるだろうか?)
出来上がったチョコレートを適当な紙袋に入れながら、一抹の不安が過ぎる。
いや、待てそれよりも、あの人はこのチョコレートの意味を果たして理解してくれるだろうか?
ちょっとばかり浮世離れした人だ。
そもそもバレンタインデーという日を知らないのではないか?
いつも、ウフフと穏やかに微笑む人を思い浮かべる。
俺はバレンタインデーを教えた覚えはない。ということは、多分、知らないだろう。
「・・・どうするかな」
手にした紙袋を振ってみる。バシバシと紙袋の中でチョコレートが跳ねる音が聞こえた。
先にバレンタインデーの意味を教えたほうが良いだろうか?
しかし、・・・なんと言って説明すれば良いのだか。ちゃんと教えることが俺に出来るだろうか。俺もなんとなくにしか知らないしな。

考えあぐねている内に男の家に着いた。
呼び鈴を鳴らす間もなく、男が玄関を開けた。
「イルカ先生、イルカ先生」
嬉しそうに俺の名を呼びながら手を握ってくる。そのまま家に引っ張り込まれた。
「もう用事は良いの?」
(・・・走ってくれば良かった)
嬉しさを垂れ流す男に胸が詰まる。何を悠長に歩いて来てるんだ、俺は。
「すいません、遅くなってしまって・・・」
「うん」
謝る俺に男は頷く。嬉しそうに笑ったまま。
はっきり言ってこの「うん」は意味不明だ。ただ、俺が言うことに頷く。
話す内容などどうでも良いと言われているような気がしないでもないが、それよりも、ただ貴方が居ればそれで良いのだと、そう言われているような気がする。
自分の存在への全肯定。
そう受け止めてしまいたくなるのは、俺の願望かもしれない。
「あの、これを作って来ました」
さっきからずっと手は繋いだままだ。繋いだ手とはもう片方の手に持っていた紙袋を男の眼前へ差し出した。
「何?」
男は反射的に受け取った紙袋を不思議そうに眺める。
「中を見ても良い?」
「どうぞ」
律儀に聞いてくるのに返事をすると、繋いだ男の手が紙袋を開くために俺の手から離れた。
寂しいので、少し間合いを詰め男の反応を間近で見ることにした。
「・・・これは?」
男が紙袋の中から俺の作ったチョコレートをつまみ上げる。珍しい。少し怪訝そうな顔をしている。
「チョ、・・・チョコレートですよ」
俺もそ知らぬ振りをしながら答えるが、・・・内心で思わず呟いていた。
(何だ、アレ)
怪訝そうな顔をするのが納得の代物を男の綺麗な指が摘んでいる。
それは確かに俺の作ったチョコレートではあるが・・・大豆の欠片も見え隠れしているし、間違いようもないのだが・・・。
形が何だか変だ。
ちゃんと固まらない内に振り回したりしたせいだろうか。丸く形作ったつもりだが、ちょっと伸びたり潰れたりしている。
はっきり言ってウンコみたいだ。見え隠れする大豆の欠片が妙に生々しい。俺はなんて余計なことをしてしまったのか。
だが、俺を全肯定する男はチョコレートということにいともあっさり納得した。
「イルカ先生が作ったの、俺がもらって良いんですか?」
すぐに怪訝そうに寄せられた眉根を解き、ニコリと笑う。
「・・・そのために作ったので」
本当は、返してくれ!!と叫びたかった。
「嬉しい。イルカ先生がお菓子作るなんて珍しいねー」
(やっぱり気付いてねえ)
のほほんとした顔をしている男に先程までの予想が当たっていたことを知る。この男はバレンタインデーを知らない。
やはり俺が知っている限り教えた方が良いかもしれない。

今日は、好きな人に愛を告白する日なのだと。その方法の一つに、チョコレートを贈るものだと。

多分、男は喜ぶだろう。何も知らない今でさえ、嬉しそうにウンコ・・・じゃねえ、チョコレートを摘んでいる。
「でも、どうして急にチョコレートなんですか?」
そして無邪気に聞いてくれた。
(よし、来た!!)
ここぞとばかりに答えてみせよう。
決してそのチョコレートは嫌がらせではないと説明をしなくては。今回は若干失敗してしまったが、それは俺の愛とそれなりの努力の結晶なのだ。
そう勢い込んだというのに、

「そ、それは・・・あの、すき、好きだから・・・・!!」

・・・俺は、どうも駄目だな。この人を前にすると、照れて照れてどうしようもなくなる。
頭で考える前に、口が先走る。この人のことを口下手だなんて言えたもんじゃない。俺だってこの体たらくだ。
しかもこの男相手に。こんな言い方じゃ男はきっとわかってくれやしないだろう。
案の定男は聞いた。

「そんなにチョコレートが好きなの?」

「いえ。カカシ先生が好きなんです」

まあさすがにこの疑問はキッパリと否定はしておいた。


これが一ヶ月前の話だ。

 

(どれも美味そうだ)
表紙を開けば色とりどりの菓子が所狭しと並んだ写真が載っている。どれもこれも綺麗な様にハテと首を捻った。
(俺が買ったのはこの本か?)
いったん本を閉じ、タイトルを確認する。

――ハイレベルなぶっきちょさんのお菓子作り

よし、この本に間違いはない。先程本屋で背表紙を見たままに買ってきてしまった。
これを手にとった時点で己を不器用だと認めることになる、それが嫌だから勉強しようというのに・・・、読者をそんなジレンマに陥れんばかりのタイトルに目を奪われたのだ。
俺は自分で言うのも何だがそこまで不器用じゃない。手先の器用さは人類平均で見れば中の上くらいじゃないだろうか。
しかし、バレンタインデーでまさかの失敗をしてしまった。
いや、その日は特別大きな失敗だとは思わなかったのだが・・・。
あれはバレンタインデーから一週間ほどたった日のことだろうか。
たまたま出くわしたアスマ先生に呼び止められたのだ。
「カカシの奴がこの前待機所でよー・・・」
少しばかり声を落としてアスマ先生が話し始めた。
「こう・・・おもむろに紙袋から犬のクソを出して喰ってたんだが、あいつ大丈夫か?」
その内容は酷く衝撃的だった。
(なんだって・・・?!)
アスマ先生の言うソレが俺の作ったチョコレートだということはすぐにわかった。
「違います!それ、チョコレートなんです!お・・・俺が作ってカカシ先生にあげたんです!バレンタインデーだったんで・・・!だから、カカシ先生はダイジョウ・・・ッ」
言い募りながら、全然大丈夫じゃないかもしれないと嫌な汗が背中を流れる。
この肝の座ってそうな上忍ですらカカシ先生の行動に驚いたのだ。待機所は公共の場だ、他にもカカシ先生を誤解した人が居たのではないか・・・。
(どうしよう)
まさかカカシ先生が外にアレを持ち出すとは思わなかった。
やっぱり取り返せば良かったのか・・・?でもカカシ先生は喜んでたし・・・。
自分の顔から血の気の引くのがわかる。何にせよ、俺は仕出かしてしまったようだ。アスマ先生は目を見張り、俺の頭をグーで小突いた。
「おまえ紛らわしいもん作ってんじゃねえぞ」
「・・・申し訳ございません・・・」
この言葉は・・・カカシ先生にこそ言いたい。
「あの、アスマ先生のほかにもソレを見た方は・・・?」
あービビッた、そう呟く男に恐る恐る尋ねた。誰も居なかったと言って欲しい。
眼前で両の指を絡め、祈る仕草で男の返事を待った。
しかし男の言葉は無情だった。

「あー?待機所だしなあ、俺一人じゃなかったろうな」

(居たのか・・・)
アスマ先生はとりわけ思いだす素振りを見せるわけでもなく口先だけで答えた。
誰が居たのか・・・聞きたくてもアスマ先生は興味が失せたとばかり背を向けて立ち去った。
俺はその場からしばらく動けなかった。
ただ絡めたままの両の指を解くことは出来ず、心中で祈る。

せめて、あの場に居たのが心優しい人達でありますように。
カカシ先生の噂を面白おかしく吹聴するような人達ではありませんように。

その願いは、ある意味かなった。
この一ヶ月俺の耳に届いたのはカカシ先生を笑い者にするような類のものではなかった。
同僚達が俺の肩を叩き言うことといえば、
「おい、イルカ。おまえ菓子をウンコにする術開発したんだって?」
何故か俺の評価を突き落とすものだった。
アスマ先生は根は良い人なのかもしれないが、少し意地悪だ。
いや、面倒くせえが口ぐせの男だ。ただ気をまわすことなどせず、あるがままを周りに喋っただけかもしれない。それを聞いた奴らが好き勝手に解釈したのか。
「何の意味があるんだ?別に術にしなくても良くねえ?喰えばいいだけじゃねえ?」
俺がくだらない術を開発したと、こぞって男連中は笑いにやってくる。
イチイチ目くじらを立てるのもバカらしい。
「そんな術があるわけないだろう」
真顔で答えれば、
「いや、おまえのことだから、もしかしたらと思ってさー」
大抵こう切り替えされた。俺の評価ってどんなだよ。
まあ高くないことは確かだ。その評価が下げられようと(アカデミーの男子生徒からは絶大な支持を得たが・・・)たかがしれていることが救いともいえた。
カカシ先生がよりにもよってな陰口を叩かれるという最悪な事態は免れたのだ。
しかし・・・悔しいじゃないか。
俺の愛の結晶をそんな風に笑われて、ここで黙っていては男が廃る。
それにカカシ先生が言った。
何故あれを持ち出しのかそれとなく聞いた俺に、

『自慢したかったんです』

誇らしさを滲ませた笑顔で答えてくれた。

俺は嬉しかった。あんなものを・・・俺の気持ちというだけで誇らしく思ってくれた男が愛しかった。
こうなったら思う存分自慢をさせてあげたい。
素晴らしい菓子を持たせ、周囲をあっと言わせるのだ。
『おまえは料理上手の恋人が居て幸せだなあ』
みたいなことを言いながらアスマ先生がカカシ先生の肩を叩いたりして・・・良い。これは良いぞ。カカシ先生も嬉しいだろうし、俺の名誉挽回にもなる。
だんだん楽しくなり料理本をめくる指にも力が入りはじめる。
(やっぱ見栄えが良いのはケーキ類だよなあ)
紙面を彩る華やかなケーキに目を奪われる。こんなのが作れればそりゃ言うことないだろうが・・・、気軽に持ち歩けるようなもんじゃないよな。
ケーキ持参で任務って変だよ、さすがに。
すぐに型崩れしそうだし(それは大問題だ)。
「ん〜〜〜〜」
唸っていると玄関先で音が聞こえた。
カカシ先生が帰ってきたんだ。出迎えようと本を一端閉じたがその僅かな間にもうカカシ先生が俺の居る茶の間に入ってきていた。
「イルカ先生?」
「おかえりなさい。お邪魔してます」
「あー・・・、うん、はい。ただいま戻りました」
視線をウロウロさせカカシ先生が答える。そのままエヘヘと笑いながら俺の隣に座った。
「何見てるんですか?」
「菓子の本ですよ。また作ろうかと思って」
隠すことはカカシ先生の家に来ている以上出来ないだろうし、しようとも思わなかった。
驚かす楽しみは捨てがたいが、一ヶ月前のバレンタインデーでは少しでも一緒に居れば良かったという些細な後悔を味わった。
今でも、少し頬を染めて隣に座る男は可愛く一秒でも見逃すのは惜しい。
何よりカカシ先生との日常はサプライズに満ちており、今更付け加える必要もないだろう。
「カカシ先生、何か食べたいのありますか?明日のために作りますよ」
「明日・・・何かあるんですか?」
「え?」
ホワイトデーじゃないか。言いかけて、そういえば、と思いなおした。俺は結局バレンタインデーの説明すらしないままだった。ホワイトデーを知っているはずがなかった。
「えーっと・・・。先月のお返しをしたくて」
ホワイトデーの意味は本来それだろう。
だが今回の俺に至ってはそれとは違う。気分的には・・・リベンジか?
そもそもバレンタインデーにチョコレートを贈ったのは俺、それにお返しも何もない。
けど。
あの日、カカシ先生に貰った幸福感があるのは確かだなのだ。
だとしたら、やっぱりお返しで間違ってないような気もする。
「先月のお返し?・・・あの、ちょっと思い当たりません」
カカシ先生が素直に視線を下げ考えこんでいる。
「まあ、先月だけじゃないんですけどね。カカシ先生が、俺のこと好きでいてくれることに何か形でお返ししたいなーってことですよ。そう深く考えるものでもないです」
気恥ずかしさにわざと軽い調子で言ってしまう。それでもカカシ先生がはじかれたように視線をあげた。
目を見開き、無言で俺を見つめてくる。
・・・なんか言ってくれないと照れるじゃないか・・・!
紅くなっている顔を見られたくなくて視線を逸らすと、カカシ先生の手が伸びてきた。
「わぁ!」
そのまま両腕で抱きこまれ、ギュウギュウ締め付けられた。
「ごめん、イルカ先生。・・・何を言っていいかわからなくて・・・!どうしよう・・・」
強い締め付けに息が詰まりそうになる。
(く・・・苦しい・・・!)
降参の合図にカカシ先生の腕を軽く叩くも、まったく気付いてくれない。しきりと何かブツブツ呟いている。
「嬉しい」「幸せ」「好き」「大好き」
息苦しさにぼんやりとする頭ではよく聞き取れないが、まあこんな類のことを言っているようだ。
嬉しいのはわかった、わかったから・・・!ほんとにちょっと苦しいし、痛い。そろそろ手を緩めてくれ。
「ねえ、お返しするのは俺の方だよ。イルカ先生、何が欲しい?教えて。俺にもお返しさせて」
(欲しいもの・・・)
とりあえず今は酸素。
その答えが脳内で弾き出され、声に出そうと口を開く。
だがカカシ先生は非情だった。
何を勘違いしたのか締め付けはそのままに口付けてきた。


(・・・このまま寝てしまいたい)
結局、寝室に場所を変え一戦を交えることになってしまった。情事後の気だるさにそのまま眠りに捕まりそうになる。
それを無理やり振り払い本のページをめくった。
今からだと大したものは作れないよなー。窓の外は既に真っ暗だ。
菓子を作るのにどれほどの時間がかかるかはわからないが、まあ10分やそこらで出来るものではないだろう。
「イルカ先生、今日はもう止めましょう。無理しないで」
困ったと台所で佇む俺の後でさっきからカカシ先生は落ち着きがない。
「無理なんかしてませんよ。カカシ先生は先に寝ててください」
「嫌ですよ!菓子なんて今つくらなきゃならないものでもないでしょう?イルカ先生、さっきからへっぴり腰なんですよ!立ってるのも辛いんじゃないですか?」
何だよ、へっぴり腰って。
たまにこの人失礼だよな。
別に今から走り回ろうってわけでもないのに心配しすぎだろ。
「カカシ先生、邪魔するならあっち行っててください」
ぞんざいな口調にカカシ先生の気配が一瞬強張る。だけどめげてはくれなかった。
「嫌です」
「じゃあ・・・まあ居てくださっても構いませんが、俺は止めませんよ。今日中につくらなきゃいけないんです」
「なんで?」
勢い込んで聞いてくる。なんで・・・確かに、明日じゃなくちゃ駄目ってことはないんだよなあ。
いつ作ってもカカシ先生なら喜んでくれるだろうし、そもそもホワイトデーなんて知らないもんな。
だけど・・・時を逸しては駄目なのだ。思い立ったが吉日とも言う。それに、いつにない強い口調のカカシ先生にだんだん後にひけなくなっているのも事実だ。
「何がなんでもですよ!」
「そんなんじゃ納得できません」
「カカシ先生こそ、なんでそんなに邪魔するんです?」
「心配だから!イルカ先生はいつも仕事優先で体辛くても大丈夫って言うし、休める時には休んで欲しいって思うのは当然じゃないの」
「お・・・大げさに言わないでください!もういいですから、やっぱりカカシ先生はあっちに行っててくださいって!」
カカシ先生を台所から追い出そうと背中を押すが足を踏ん張ることも出来ず力も入らない。非力な押しにカカシ先生が深くため息を吐いた。
「・・・わかりました」
台所から押し出すことは出来なかったが、折れる気になってくれたみたいだ。
「だったら俺も手伝います」
(たったそこまでの譲歩か!)
と、正直に口にすればこの僅かな譲歩すら覆そうなので、黙っておく。
「二人でしたほうがずっと早く出来ますよ」
男前に微笑まれ、俺もここら折れ時だろうとしぶしぶ頷いた。
本当は、カカシ先生に手伝ってもらっちゃあ意味がないような気もした。
が、こんな状況で無理やり作って渡しても喜んでもらうどころか悲しませそうだ。
それに今回の菓子作りには汚名返上という目的もある。だとしたら、カカシ先生に手伝ってもらうのは良い案に思えた。
俺よりもずっと手先の器用な男なのだ、菓子作りにもそれを発揮してくれるだろう。

 

何を作るかすら決めていなかった菓子作りは丑三つ時を過ぎても終わらない。

(・・・俺は何をしてるんだ?)
クッキーの型抜きをしている最中ハっと我に返った。こんな夜中に野郎が二人で粉に塗れてお菓子作りなんて、よくよく考えればおかしな光景じゃないか。
「イルカ先生、寝てていいのに」
「や、そういうわけにもいかんでしょう」
言い出したのは俺なのでカカシ先生を置いて先に寝るわけにはいかない。
既に居間のテーブルにはケーキだのパイだのプリンだの、なんか可愛いので溢れている。どれも見事なできばえだ。
カカシ先生は俺の期待以上に働いてくれた。幾度も粉をふるい、生地を練り、生クリームを泡立て・・・。
(期待以上というかそこまで望んでないというか・・・)
チラっと不満めいたものが脳裏をかすめるも眠すぎてそれもよくわからなくなってきた。
結局、カカシ先生がほとんど作ったようなもんだよなあ〜。
俺はそれを見てただけというか、簡単な作業をやらせてもらってるだけというか・・・。
こう・・・寝てても出来るようなクッキーの型抜きをだな・・・。
あー・・・これじゃあ俺の汚名返上にはならねえよなあ。
じゃあ、あの大量の菓子どうするんだよ?えー、俺、あんなに食えねえよ・・・。

「イルカせんせ?」

夢か現かカカシ先生の声が聞こえる。ん?なんだよ、俺、寝てたのかよ?
「・・・んあ?寝てませんよ。寝てませんけど・・・すいません、限界かも・・・」
「ん〜。どっちでもいいけどさ、イルカ先生さっきから笑ってるよ。面白いの」
緩やかな声は現実に引き戻す強さはない。小さく笑う気配が心地良かった。
(笑ってるのは俺じゃないよな〜・・・)
何がおかしいのかクスクスとカカシ先生が笑っている。

そんな悠長に笑ってられるのも今のうちだよ。起きたらきっと俺はこの膨大な菓子を前に途方に暮れるんだ。
どうやってこれらを配ろうか?首を捻ってるのは・・・ああ、そうだ、やっぱり俺だけで、カカシ先生は隣で相変わらず笑ってんだろうなあ。

『自慢したかったんです』

前に、カカシ先生が言ってくれたあの言葉がある。
そうだな、じゃあ俺もそれに習ってみようか。

不器用返上は後にして、ひとまず二人の共同作業の結晶を周りに自慢してみようか。

それも悪くない。

明日の幸せを想像できることに安心し、そのまま眠ることにした。




(完)




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