(420話カカイルアニバーサリー記念小噺)



悔しそうにイルカ先生が俺を睨みつけてくる。
悲しくて息が止まるかと思った。
でも、ここで言わなきゃ俺の忍としての生き様が泣く。
イルカ先生だってきっとわかってくれるさ。今はナルト可愛さに我を失っているだけさ。
そう覚悟を決めて口を開いたわけだが、
「口出し無用。今は私の部下です」
途端にイルカは憤怒の形相となった。
(い…言わなきゃ良かった……っ!!!)
俺は一瞬で自分の言葉を後悔した。

あれからイルカ先生は俺を無視するようになった。

何度も謝ろうと思った。
なにせ俺はイルカ先生に惚れている。初めて会った時から大好きだ。
その伸びた背筋も鋭い眼光も真っ直ぐに入る鼻の傷も、日に焼けた肌もどっしりとした尻も、たわわな髪も落ち着いた声も、一目で俺を虜にした。
性根の素晴らしさはナルトが語るに及ばず、些細な接触でも見て取れる。
頑固で真面目な分情が深い。
俺の如き野蛮な生い立ちの男を前にしてもその態度はいつだって真摯だった。
なのに。
(…そんなに怒らなくて良いじゃない)
あの諍い以来、イルカ先生は俺と目も合わせてくれない。受付で報告書を出すと嫌そうな顔で親指と人差し指で摘むようにして受け取る。
謝ろうと声をかけると舌打ちで返された。
酷い仕打ちに心は折れてしまいそうだった。
けれど、俺はイルカ先生のことを諦めきれなかった。
希望もあったのだ。
いつだったか、人づてに聞いたことがある。
「前に、イルカがカカシさんの方が正しかったって言ってたぞ」と。
俺は自分を奮い立たせイルカ先生に謝りに行った。けれど、イルカ先生の態度は悪いままだった。
そういえばこの時すでにサスケが里を抜けナルトが旅立った後だったのだ。
この一連の件をイルカ先生は俺の監督不行届だと思っているらしい。(一理あるけど)
ナルトの喪失によりイルカ先生が俺に対しその態度を改善するなど有り得なかった。
悪化することがなかったのが救いといえど、あれ以上悪くなりようがなかったのかもしれない。
それでも俺はめげなかった。
毎日毎日後をつけ、謝るタイミングを伺っていた。
もう一度イルカ先生のはにかむ笑顔が見たかった。
いやいや、そんな贅沢は言わない。目を合わせて欲しい。舌打ちしないで欲しい。報告書くらい普通に受け取って欲しい。
俺だって最初は付き合えたら良いなーとか思ってた時期もある。
手を繋いで肩を寄せ合い、接吻を交わし、褥を共にし……。
ただこんなの夢じゃないか!
あのイルカ先生が俺にそんなことさせてくれるわけないじゃないか!
過ぎる夢は見るだけ虚しい。
イルカ先生と普通に言葉を交わすようになることが何よりの目標だった。
そうこうしている内に早三年。
イルカ先生は相変わらず俺を無視していた。
いや、そうでもないか。
ナルトが里に戻ってからは…ナルトの前では、多少その態度も改善された。
俺に対してあからさまに嫌そうな顔をしない。もしかしてナルトしか目に入ってないからかもしれないが、進歩には違いない。

何も無いなら諦めたかもしれないのに、ようやっと見えた仲直りの兆しに俺は挫折することが出来なくなった。

それこそ、

雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ、雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ(…そして皆に木偶の棒と呼ばれても……)

もう辛い。ほんと、辛い。

何でこんなにイルカ先生が好きなのかと自分でも思うし、答えなど見つからない。
生まれてこの方三十年、その十分の一を俺はイルカ先生との仲直りに費やしていた。


そして。
ついにこの日がやってきた。
中忍如きのイルカ先生が敵の総大将に出くわしてしまったのだ。
何と言う運の悪さ!
驚く俺の前で絶対絶命のイルカ先生!!
(ここだ!)
イルカ先生とは逆に俺にとってはこれ以上ないチャンスだった。こんな機会が俺に巡ってくるとは!
まさにイルカ先生の脳天を貫こうとする棒…?を受け止める。
驚くイルカ先生の気配を背中に感じた。
「そこの負傷者をつれて退いてください。ま、ここは俺に任せて」
イルカ先生とは目を合わさずに言う。敵から目を逸らせなかったわけじゃない。振り向いてまた睨みつけられたらと思うと体が強張ってしまったのだ。
この三年間でしっかりと恐怖は刷り込まれてしまっていた。
これでは仲直りどころか…ああでもイルカ先生がこんな近くに…どうしよう、俺昨日風呂入ってないんだよな…。
内心情けないやら困るやら。
そんな俺に、
「分かりました!」
久しぶりに嫌悪感のない澄んだ声がかけられたのだ。
この声はまさにイルカ先生……!!
俺にこんな普通に声かけてくれるなんて……!!

生きてて良かった。心底思った。

イルカ先生がようやっと俺のこと許してくれたのだ。
あれ以来ずっとツンケンしていたイルカ先生が、俺に任せてくれたのだ。
最初の信頼を取り戻したのだ。

俺は去っていくイルカ先生を背に感じながら珍妙な造形をした顔の男に対峙した。

この男は強いだろう。
けれど、俺はとても穏やかな気持ちだ。

例えこの場で息絶えようとも、もはや悔いはない。

「ぐあ!」



(完!!!)


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とりあえずお約束をやっとこうかと・・・。 わっしょい!わっしょい!