『となりのトトロ』パロ

トトロ → 暗部カカシ
さつき → イルカ
メイ → ナルト


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となりの暗部




枝のトンネルの向こうに横たわるナルトの小さな体を見つけた。
「ナルト!!」
慌てて駆け寄りその小さな体を抱き起こした。木漏れ日に晒された体は柔らかく温かい。規則的な呼吸が胸元をくすぐる。
安堵に胸を撫で下ろした。
「・・・ん〜〜・・・」
ナルトは小さく身じろぎをした。容赦なく差し込む光にキュっと瞼を強く閉じ、不明瞭にムニャムニャと何か言っている。
「バカ!こんなところで寝る奴があるか!心配したんだぞ!」
顔を覗き込むと、ナルトはいきなり目を開いた。
「トロルは??!!」
ゴムまりのように弾んでナルトが飛び起きた。キョロキョロと周りを伺いながら、忙しなく動き回る。
寝起きばなに動けるこの瞬発力は凄いな。感心するも、一人奥へ行こうとするナルトの首ねっこを慌てて捕まえた。
「こら。少しは落ち着け。どうしたんだよ」
「イルカ先生、トロルは?!なあ、トロルは何処行ったんだってばっ?」
「トロル?」
勢い込んで尋ねてくるナルトはまだキョロキョロと辺りを見回している。
夢でも見ていたのだろうか?そういえば昨日寝る前ナルトに読んでやった絵本の中にトロルが出てきた。ナルトはいたくその話を気に入っていたようだった。
「夢でトロルに会ったのか?」
「夢じゃない!!本当に居たんだってばよ!!お面被ってて、銀色の髪で!こーーんな長い爪で!!!」
ナルトが大げさな身振りで説明をする。お面?銀の髪?長い爪?あれ?昨日、俺が読んだ本の中のトロルとは違わないか?
「そりゃ、暗部じゃのう」
首を捻っていると、後ろからのんびりと声を掛けられた。
「ほぉ、こりゃすごい」
ナルトのサンダルを片手に自来也様が大きな体躯を精一杯屈め小枝のトンネルを抜け出てくる。
「エロ仙人!!暗部って?」
「こら、ちゃんと自来也様とお呼びしないか」
ナルトの軽口を嗜めるも、エロ仙人呼ばわりされる人はもう慣れたものと気にした素振りはない。ただ一発ナルトの頭に拳骨を落としただけだ。
「・・・ってぇ〜〜!んで、暗部って?トロルじゃないのかってば?!」
「この森の主じゃよ。ナルトはそいつに会ったんじゃろ」
(暗部?)
聞きなれない単語にナルトと一緒に首を捻った。
「そういや、まだ挨拶をしてなかったのう」
行くか、と自来也様はまた体を丸めトンネルを這いでて行く。俺とナルトも一度だけ顔を見合わせ黙ってその後ろに着いていった。

道すがら、暗部の話を聞いた。
樹齢千年はゆうに超える大樹に宿ったその者は、森を守り、里を守っていると。
姿はめったにあらわさないが、今こうして流れる穏やかな時がその存在の確かさを証明していると。
不思議な感覚が胸を過ぎる。
守られている事への・・・言いようの無いこの感覚は感謝か安堵か、何故か胸がドキドキする。ナルトも自来也様の話に大人しく耳を傾けながら、目をキラキラさせていた。

「ナルトが世話になったのーーーー!!!礼!!!!」

主と呼ばれる大樹を前に、三人揃って頭を下げた。
(ナルトがお世話になりました)
心の中で暗部を宿す大樹に礼を言う。
(これからもお世話になります。よろしくお願いします)

願い事も一つ。

(ナルトばっかりズルイです。俺もあなたに会いたいです)

気合を入れて更に深く頭を下げた。
葉の擦れる音が大きくなる。頭を上げると眼前には押し寄せるような深い緑がザワザワと風を受けて騒いでいた。

 


(・・・居ない)
てっきりこのバスに乗っていると思ったが、目当ての人物は降りてこない。
「乗りますか?」
乗務員の問いに首を振り、叩きつけるような雨音に混ざってバスの扉が閉まる音を聞いた。
「ナルト、三代目の家で待ってるか?」
視線を下げるとナルトが眠そうに一点を見つめ「いい」と小さく言いきる。
この雨では直接地べたに座ることもできない。幼い体で雨の中立ちっぱなしはキツイだろう。
「ほら、ナルト」
腰をかがめ背を向けると、ナルトはモソモソと登ってきた。
「もう少しの我慢だからな」
せっかくだから起きて自来也様を出迎えような、言う間もなく、背中から小さな寝息が聞こえ始めた。
(もう寝たのか)
まあ、寝るだろうなとは思っていたが、もう少しねばって欲しかった。話相手が居ないのでは待つ時間も余計長く感じてしまう。
先ほどから雨が止む気配はない。車道にはいくつも小さな川が出来ていた。
小さくため息をついてしまった。
あー・・・なんか、俺も眠くなる。早くバス来ないかなー。

・・・・・・・・。

・・・・・・・・・、パッ!!

水の弾ける音に我に返る。

うお、俺いま立ったまま寝てた・・・・、

(え?)

覆いかぶさる傘の合間から黒い尖った爪先のようなものが見える。なんだ?訝しく思い傘をずらし顔をあげ・・・、俺は一瞬我が目を疑った。

『お面被ってて!銀色の髪で!!爪がこーーんな長くて!!』

ナルトの言葉が脳裏に蘇る。その言葉通りの何かが俺の隣に、居た。
「・・・暗部・・・?」
呆然と呟くと、その暗部(多分)はチラリと俺に一瞥をくれ(たように見えた)、すぐにまた顔を元に戻す。先ほどより少しは弱くなったとは言え、雨はシトシト降り続け暗部の体を濡らしていた。
傘を持っていないのか?
更に見上げると、銀色の頭に申し訳程度の葉っぱが乗っけられているのがわかった。
(・・・全然雨が防げてねえ)
もしかしてあの葉っぱは暗部なりのお洒落なのだろうか。そう思いもしたが、あまり防寒性のよくなさそうな服装で雨に濡れている様子は見ているこっちが寒くなってしまう。
「あの、これどうぞ」
差していた傘を肩と顎で挟み、持っていたもう一つの傘を差し出した。
閉じたままではわからないかもと、傘を開く。その音に暗部は吃驚したようにこちらを振り返った。
「早く。ナルトが落ちる」
背中からずり落ちそうなナルトを背負い直しながら言うと、暗部は尖った爪先で傘を受け取った。
お面を被っているので表情はよくわからないが、不思議そうに首をかしげて傘を眺めている。両の爪先で傘を挟み持ち、「何だ?これ」と言わんばかりに弄ぶ。
「こうやって差すんです」
教えてやると、それでも暗部はしばらく指先で傘を弄んでいたが、俺と同じように傘を持った。
ホっと安堵に頬が緩む。これで濡れずに済むだろう。
(・・・人と同じ姿なんだな)
予想していたのとは随分違う。むき出しになった二の腕を眺めながら、ナルトの話を思い出した。トロルなんて言うから、もっとオドロオドロしい者かと勝手に思っていた。
ただ、どんなに人と同じ形をしていると言っても、その肌の白さや見たことの無い美しい髪の色は人と同じだとは思えない。
幻想的だとすら思う。
その幻想的な者は、先ほどから傘に落ちる小さな雨音を興味深そうに顎を上に逸らして聞き入っていた。
成人男性と同じ体躯に似つかわしくないその無邪気な仕草は微笑ましい。
思わず笑うと、暗部はこちらを振り向いた。その僅かな反動に、葉から大きな水滴が落ち暗部が差す傘を打った。

はじく音に暗部が驚き鳥肌を立てる。

(・・・すげえ・・・)

総毛立つとはよく言うが、実際に、このように下から痺れが這い登っていく様子を見るのは初めてだ。呆然と眺めていると、暗部は膝を大きく屈した。

(・・・わ・・・!)

そのまま音も立てず地を蹴り飛び上がる。姿が見えなくなったかと思ったが、次の瞬間、暗部は同じ場所に着地し地を大きく震わせた。
一斉にそこら中の水滴が落下しドシャ降り状態になった。
暗部は相変わず鳥肌を立てている。しかも・・・、

お面外れてるけど・・・?

着地した反動で暗部の顔から面がずり落ちていた。現れた顔に目が奪われる。
(なんて美人な・・・)
かつてこれほど美しい顔を見たことがない。左目にははっきりと一筋の傷が入っていたが、そんなもの、この美しさを損なわせる要因にはならない。
バカみたいに口を開けてみていると、暗部は両の口の端を少しだけ吊り上げて笑った。
暗部はそのまま前へ歩み出る。道の向こうから二つ光が近づいてきていた。
背中でナルトが身じろぎしたのがわかったが、もうなんかそれどころじゃない。
(・・・何だ、あれ)
最初、ただのバスかと思ったが、あれは・・・。
「ねこ・・・」
俺の背中からずり落ちながらナルトが呟く。
バスよりもデカイ猫だ。しかもそれに美しい暗部は乗り込んだ。開いた猫の一部は窓のようになっていて、暗部がこちらを向き直ったのが見えた。
暗部は猫が走り出すまでジっとこちらを見ていた。
何も言わず、手も振らず、傘は差したままで。