(初々花耽1000HIT リクエスト小説)
閃光
向う先を遮る様に上忍二人が感情を露に言い争いをしている。
あまり見かける光景ではなかったし関りたいものでもない。
なるべく二人に気取られぬよう、されど上司相手に無視するわけにも行かず何気なく挨拶だけを済ませその場をやりすごそうとした。
「アスマ先生、紅先生、お疲れ様です」
一端足を止め頭を下げたが言い争う二人は俺など目もくれない。というか聞こえていないのだろう。
言い争う声を大きなものではなかったが、二人とも気配が乱れていた。
怒っているというよりか、焦っている風に見える。
紅先生が腹立たしげに地団太を踏むを見ない振りをして俺は目的地である医務室の扉に手をかけた。
二人のことよりも今は自分の生徒のことが心配だった。
昼間、体術の授業の最中に気絶をしてしまった生徒がいた。
気絶の理由は他愛ない、組み手の最中に相手の蹴りを避けそこない自ら壁に激突してしまったというものだった。
忍の卵としてはなんともトホホな出来事であるが、打ったところが頭というだけあってやはり心配だ。
診てくれた医務の先生は大丈夫だと言うものの、グッタリと気絶したままの生徒を見ると不安は募る。
(もう目を覚ましただろうか?)
焦る手つきで引き戸を開き、中へ踏みこもうとした瞬間、
「イルカ!駄目!!」
紅先生のせっぱつまった声と同時に、
グイ、と
腕を掴まれ後へ引っ張られた。
「へ?な、なに?」
「バカが!うかつに入るんじゃねえ!」
突然の出来事を理解できずに居ると、すかさずアスマ先生の苛立った声に咎められた。
振りかえると、紅先生が青ざめた顔で俺の腕を引っ張っている。
「どうか、なさったんですか・・・?」
二人の様子は明かにおかしい。
なぜ、医務室へ入ってはいけないのだろう。
嫌な予感が背筋を這った。
「医務室に何が?」
問うと二人とも一瞬言葉に詰まったように押し黙った。
「ちょっと、今は入らないで欲しいのよ。用があるならまたにしてくれないかしら」
取り繕うように紅先生は口早に言ってグイグイと俺を医務室から遠ざけ様とする。
「なんなら私が変わりに用事済ませてあげてもいいわ。ね?だから、とりあえずここから離れてちょうだい」
けれど、そこから動くわけにはいかなかった。
医務室に何かあるというのなら。
「イルカ!駄目っつってんだろっ!!」
紅先生の腕を振り解いて医務室へ踏み入ろうとして、今度はアスマ先生に押しとめられた。
まぎれもない上忍の腕力に骨が軋んだが、それどころではない。
「生徒が!!生徒が・・・この中に居るんですっ!」
医務室に何が起きているのかわからないが、二人の様子はただ事ではない。
俺の言葉にアスマ先生の力が一瞬緩んだ。
その隙をついて医務室へと滑りこむ。
入った瞬間、ひんやりとした空気に包まれた。
医務室独特の薬品の臭いが鼻につく。
その中に、一人の男がポツンとベッドの脇に突っ立っていた。
「・・・はたけ、上忍・・・?」
思わずその男の名を口にすると、その男は、ゆらりとこちらへ視線を遣した。
何か信じられないものでも見たように、男は目を見開き俺を見ていた。
(なんだ?)
男の様子にますます不安が募った。
医務室にはこの男以外に人の気配を感じない。
「すいません、ここに男の子はいませんでしたか?」
今、男が立っているそのベッドに、あの子が横たわっていたはずだ。
俺の問いかけに男は応えず、裸足の足でペタリペタリと音をたて俺に近づいてくる。
「男の子が寝ていたはずなんです!」
どうして居ないんだ?
そしてどうしてこの男が居るんだ?
焦る心とは裏腹になぜか体がピクリとも動かない。
近づいてくる男の視線に絡め取られるように、体の自由が利かなかった。
「イルカせんせ・・・?」
掠れた声で名を呼ばれた。
男は俺の前まで来ると、その両膝をガクリと折った。
(・・・・なに・・・・?)
目の前の光景が信じられない。
なぜ、この男は自分の前で跪いているのだろうか。
呆けた頭では何も考えることが出来ず、ただ目の前の男の行為を眺めた。
「俺を、・・・ゆるして」
自分を見上げる男の目に、赤い焔が灯っている。
あ、写輪眼
言葉よりもその鮮やかな赤だけが印象的だった。
男の手がゆっくりと自分に伸ばされる。
掴まえられると思った瞬間、
「ひぃぃぃぃぃっ!!!!」
背後から悲鳴じみた声と共に、思いっきり誰かに後へと引っぱられた。
ブンと音が鳴り、目の前で跪く男の姿が消える。
いや、遮られた。
いつのまにか紅先生の背が俺の前に立ちはだかっている。
「早く逃げな!」
「は・・・?あの・・・・」
「いいから!説明は後でするわ!今は逃げなさい!!」
紅先生の切羽詰まった声色に理解は出来ないがとにかく逃げなければならないことはわかった。
促されるままに足を踏み出した。
途端にブワっと背筋の凍るような気に包まれる。
殺気?
それのした方へと目をやるとはたけ上忍がアスマ先生に後から羽交い締めにされていた。
「イルカ!いいから行け!!」
さほど抵抗しているようには見えないが、はたけ上忍からは確かな殺気が感じられた。
その殺気は一直線に自分に向いているようで、逃げろと本能が警告する。
それの赴くままに足を走らせた。
「イルカ先生」
追いすがるような小さな声が、すでに遠くなってしまった医務室から聞こえた気がした。
わけがわからん。
あの後、里内を駈けずりまわり、医務室に居たはずの生徒を見つけ出した。
その子はケロリとした顔で「イルカせんせー職員室に居なかったから先に帰った」と臆面もなく言った。
ひとまずよかったと安堵したものの、頭は混乱したままだった。
自宅へと帰りながら、悶々と先ほどのことを考えた。
何故上忍三人が揃いも揃ってアカデミーの医務室になど居たのか。
アスマ先生と紅先生は何をあんなに焦っていたのか。
あのはたけ上忍は ―― 一体何だったのか。
全てがわからない。
里に・・・何か起こっているのだろうか?アスマ先生達のあの様子は明らかにただ事ではなかった。
紅先生の言うがままについあの場から去ってしまったが、それで良かったのだろうか。
生徒の無事を確かめなければと焦っていたが、・・・その実あの場所から逃げ出したかったのも確かではなかったか。
(情けねえ・・・)
それでも忍かと今更ながら自責の念に駆られる。
日は既に落ち、民家には夕飯時の穏やかな光が灯っていた。いつもと変わらぬ光景に妙な胸騒ぎを覚える。
今はこんなに穏やかなのに、見えないところで何かが起きているのだとしたら。
自宅アパートの鍵を開けドアノブを廻そうとした指が止まる。
(・・・紅先生を捜そうか)
後で説明するからとあの場所を追い立てられたのだ。そう言うからには、やはり自分も無関係ではないのだろう。
あれが上忍同士の諍いならいいのだ。間の悪い自分がただそこに居合わせただけなら。
けれど。
はたけ上忍のあの態度は何なのだ。
男の纏う空気は明らかに普段のソレではなかった。いつもは呑気とでも言いたくなるようなユルイ空気が、欠片も感じられなかった。
ゆるして
男は確かにあの時そう言った。
「・・・何を?」
疑問が口から零れる。
はたけ上忍とはすれ違えば挨拶を交わすぐらいの間柄だ。何より男は俺よりも立場が上だ。
階級の下の者を軽んじるような男には見えなかったが、どこか近寄り難い雰囲気があった。
俺もナルト達七班のことが気になって幾度か話かけさせてもらったが、それにも「あ〜」だの「まあまあ」だの気のない返事をもらっただけだった。
それでもナルト達が懐いているようだったので悪い印象はなかった。でもそれだけだった。
そんな男が、俺に何を許されたがっているというのか。
素顔を晒し、跪いて。
先ほどの男は本当にはたけカカシだったのか。人違いだったのではないか、そう思いもする。俺は男の素顔を見たことはない。
それでも、木の葉では見ない銀色の髪、左頬に走る傷、何よりあの赤い焔が男の名を語っていた。
ふ、と、背中がゾクリと粟立った。
(
―― 何?)
前触れ間なく、突如背後にありありとしたナニかの存在を感じた。驚く暇もない。
ドアノブにかけられたままだった俺の指に、知らない指が重なっていた。
一瞬の間に抵抗を塞がれる。反射的に構えようとする体は、既に全ての動きを封じられていた。
少しでも動いたら殺されるのではないか、本能的な恐怖が体を竦ませる。
俺の後ろに居るのは、誰だ?
「イルカ先生」
後のナニかが小さく俺の名を呟いた。
圧倒的な力の差を見せつけてるというのに、それは酷く弱々しい声だった。
「はたけ上忍・・・?」
振り向き様の言葉は、体が床に叩きつけられる音に掻き消された。
自宅の玄関先へと叩きつけられ、背をいいように打った。鈍い痛みに一瞬呼吸が止まる。
「・・・っに、を・・・!」
このような暴挙にいたった男を見上げる。
明かりの点いていない玄関先は暗く、男の顔はよく見えない。けれど、今、眼前で自分を見下ろす男が誰かすぐにわかった。
「はたけ上忍、何をなさるんですか?」
暗闇でも淡く光るを放つ銀色の髪は、この里でこの男しか持たない。口布も額宛もないその素顔は、まさに先ほどまで考えていた男のものだ。
決して怯んではならないと、男の目を睨みつけた。
男は無言で自分を見下ろす。
何を考えているのか、暗闇に慣れていない目では見取ることが出来ない。男は肩を大きく揺らしゼェゼェと喘鳴を繰り返していた。
(どうしたんだ?)
上忍がここまで息を乱すなど珍しい。戦闘中ならまだしもこのような平凡な日暮れ時にロクな抵抗も出来ない自分相手に、何故このような姿を男が見せるのか不可思議でならない。
(大丈夫なのか?)
まるで獣の吐息の如き男の呼吸音に不安を掻きたてられる。
アカデミーの医務室での男の様子は既に普通ではなかった。男に何らかの事態が起こっているのは明らかだ。
「・・・なんで、あんたなの?」
男は自分を見下ろしたまま呆然と呟いた。
呟きではあったが、先ほどのような弱々しい声ではない。酷く苛立たしげだった。
「は・・・?」
「なんで、あそこに来たんだ・・・っ!」
どちらかといえば、男があの場に居たことの方がおかしいのだ。
アカデミーで教員をしている自分がそこの医務室に居たとして、なぜそれを咎められなければいけないのか。
言い返してやろうと口を開きかけ・・・・、俺は絶句してしまった。
(・・・な、泣いてるのか・・・?!)
俺を睨みつけるその目の眦には、確かに涙が浮かんでいる。
今しがたの恐怖などかなぐり捨ててしまえるほど、その光景は衝撃的だった。
「あんたが来さえしなければ・・・」
ギリと歯軋りの音がする。
(あ!)
しまったと思った時にはもう遅い。両手首は頭上は頭上に一括りにされ、はたけ上忍が圧し掛かってきた。
「やめ・・・!何すんですか?!」
まるで赤子の手を捻るかのようだ。男は片手で俺の両腕の自由をいなし、もう片方で顎を固定する。
自由の利かない腕の代わりに両足で男の体を離そうともがく。だが足の間に体を滑り込まされ、満足な反撃が出来るわけもない。
大の男が子供の如く足をバタつけせる様は酷く滑稽だ。恐怖よりも焦り、この体勢の意味が何なのか、男が何をしようとしているのかを察し何とかここから逃れようともがいた。
男が顔を近づけてくる。
逸らそうとしても顎を押さえつけられそれもかなわない。
目前と迫る男の眦にはやはり涙が浮かんでいる。悔しくてたまらない、憎らしくて仕方がない、そう言われているような気がする。
露にされたこの感情は簡単に他人に向ける類ではないはずだ。
男は依然苦しそうな呼吸を繰り返している。両手首を押さえつけている男の手が驚く程熱く、ジットリ汗ばんでいた。
忍はそうそう汗をかかないはずだ。
男の吐息がかかる程近づいた時、ふいに甘い香が鼻腔をくすぐった。
(これ、は・・・?)
嗅ぎなれない匂いだが・・・よくない予感が背中を走る。
男の尋常でないこの様子が何かようやっと思い当たった。
―― 発情
「まさか・・・」
この甘い香は淫欲を誘発する類のものではないか。男はコレに変調を齎されているのでは・・・。
ザーッと体中の体温が下がるのがわかった。
犯される、半信半疑だったのが確信に変わった。男は既に我を忘れ始めている。
「・・・逃げてよ」
男は荒い呼吸の合間に辛そうに言い募った。逃げろと言う癖に、恐ろしい程の力で押さえつけている。
(・・・ぅ、わ・・・!)
男に唇を舐め上げられた。そのまま口腔に舌を入れられ、かき回される。性急な舌の動きが恐ろしい。
顎を押さえつけていた手はいつの間にか下へとくだっていた。アンダーをたくし上げられ、焦る手つきで素肌を弄られる。
「やめろ!」
なんとか顔を逸らし男の行為を諫めようとした。
男の体が淫欲に蝕まれているのはわかった。出すもの出すまでは治まらないのだろう。しかし、だからといってこのまま「はい、そーですか」と犯されるわけにはいかない。
男もきっと俺など抱きたくないに違いないのだ。
現に逃げろと自分に詰め寄る。その手は圧倒的な力で俺を押さえつけてはいるが、本心は嫌で溜まらないはずだ。
・・・・・確かに、そうだったはずなのに。
「イルカせんせ・・・、イルカ、イルカ」
先ほどより甘い匂いが強くなっていた。ウットリと男が俺の名を繰り返す。
「はたけ上忍?」
確かにあったはずの怒気が消えている。思わず目線を合わせてしまった。
(・・・とんでもねえ)
自分の知っているはたけカカシの影はどこにもなかった。
高潮した頬も、潤む目元も、切なげな声も、興奮に震える体も、何もかも男に似つかわしくない。
この香にどんな作用があるか知らないが、・・・これではまるで。
愛しくて仕方がないと言わんばかりではないか。
一瞬、抵抗を忘れた俺に、男は嬉々として唇を落とした。
それは苦痛以外の何でもなかった。
背後から圧し掛かる男に体をいいように蹂躙される。
肛孔から突き上がる痛みに何をされているのか思い知らされた。
遠慮のない動きに体がギシギシと軋む。
(・・・早く終わってくれ)
そればかりを願った。
男の手つきは乱暴であったが、酷く執拗でもあった。催淫の類に蝕まれているというのなら、ただ体を重ねればいいだけではないのか。
男の手が下半身を弄ってくる。
「・・・ック!」
急所を握りこまれ息が詰まりそうになった。痛みだけではない、甘い痺れに腰が震える。
罵りの言葉も満足に出てこない。こういうのは本当に止めて欲しかった。
痛みだけなら良い。暴力を奮われているのと同じなのだ。
体を痛みつけられたとて、中忍といえどそれなりに体を張って生きている自分には大したことではない。
一方的に犯されているだけなら、やり過ごすことも出来るはずだ。
「・・・気持ち、いい?」
耳裏で掠れた声がする。
良いものかと、必死で首を振った。触るなと手を跳ね除けてしまいたいが、後背に両手首を縛られては何も出来ない。
男は執拗に俺の体を嬲り、快楽を引き出そうとした。何度犯されたかわからない。
だが乱暴な腰つきにもかかわらず、触れてくる手は頼りなく、また男が漏らす声も苦しげなままだ。
「ごめん」
その言葉も・・・もう何度目だろうか。
体の自制が効かないのはわかる。ここまで何度も放っておいて一向に萎えない男のソレが異常な興奮を物語っている。
「手を、放せ・・・!」
床に突っ伏しながら、なんとか声をあげた。その声のか細さに情けなさが募る。
「ッハ!!」
男は一層体を密着させた。少しの隙間も許さないと男は腰を押し付けてくる。衝撃にしなった背に唇が押し付けられた。
そしてまた酷く頼りない声でせがむのだ。
「声、・・・もっと聞かせて?」
男の言い様に腹が立つ。
抵抗の声は男の情欲を更に引き出すことしか出来なかったのか。下半身を舐る手は一層淫らがましく動き始めた。
(チクショウ)
悔しさに涙が滲む。腰からジワジワと痛みではない感覚が這い登ってくる。
(早く終われ)
快楽は屈辱でしかない。
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