エンジェルマン





ナルトがさっきから変な目で俺を見ている。
あんなに好きな一楽のラーメンを食べる手を止め、しきりと俺の顔を物言いたげに伺っていた。
「どうした?」
聞くと、ナルトが一層目を糸のように細めて俺を見つめた。
なんだ?そんな遠い目をして。
「なー・・・イルカ先生」
「ん?」
ラーメンの汁を一滴残らず飲み干して丼置くと、ナルトがオズオズと話しかけてきた。
「カカシ先生がさー、イルカ先生のこと・・・」
『カカシ先生』の単語についビクリと反応してしまった。
俺とカカシ先生はあまり大っぴらに公言できるように関係ではない。
有体に言うと、『お付き合いをさせていただいてます』というようなものか。

ええ、男同士なんですが。
そういうお付き合いなんですよ。

けれど大っぴらには出来ないお付き合いをさせていただいているのも関らず、カカシ先生はそういうのを気にしないのか、
周りに対してこの関係を隠そうなどという気はさらさらないようだった。
なので、たまにカカシ先生の知人達からからかい半分で声をかけられたりしてビビる。

しかし、ナルトまで知っていたとは・・・。

ナルトのいつにない神妙な顔に冷や汗のような油汗が額から吹き出る。
いや、動揺することはない。
覚悟していたはずだ。
ナルトは俺よりカカシ先生と一緒にいる時間は長い。
カカシ先生がはっきりと言わないにしてもナルトが感づく可能性はある。
むしろカカシ先生のことだ、言い兼ねない。
俺もあえて口止めするようなことはしたことがなかった。
誰に知られてもも、まあいいか、と思っていたのだ。
けれどナルトには・・・。

・・・・やっぱり知られたくなかったかもなぁ。

いつかは知ることになったとしても、まだ幼いナルトに自分達の関係は理解し難いに違いない。
一体何を言われるのだろうと緊張しながらナルトの次の言葉を待った。


「カカシ先生がイルカ先生のこと天使みたいだっつてたってばよ」


はあ?


天使ぃ?


そしてナルトの言葉に俺は予想以上の衝撃を受けてしまった。


「・・・どういう、意味だ・・・・?」
「わかんねえ。でも、カカシ先生が言ったってばよ。この世のものとは思えない程美しいイルカ先生は天使だ、って」
「はぁぁぁぁ????」
この世のものとは思えない?美しい?天使?
なんだそりゃ。
カカシ先生は普段は常識人だが、たまに突拍子もないことをして俺を驚かせる。
俺があんぐりと口を開けているのを見てナルトはようやっといつもの調子を取り戻したようだ。
勢いよく丼に箸を突っ込んで話始めた。
「今日さ、任務の最中に、カカシ先生ってばいきなり起きあがってさ!あ、それまでいつもみたいにグースカ昼寝してたんだけど!それで急にイルカ先生が居るって言うんだ!」
今日?
今ナルトとラーメン食べるまで七班はおろかカカシ先生に会った覚えはない。
「お・・・おぅ!で?」
麺やら汁やらを飛ばしながら喋るナルトの気迫に押されながら、話の続きを促す。
「ほら、俺今日の任務山菜捕りだっただろ!アカデミーの裏山だったんだけど、でも、アカデミーなんか全然見えないんだぜ!下のほうに校庭が見えるくらいで!なのに、カカシ先生ってばイルカ先生が居るってんだ!」
「それで?俺は居たのか?」
「居た!!っぽい!!」
ぽい、のか。
「俺じゃ見えなかったんだけどさー」
ナルトが少しふて腐れたように言う。
「サクラちゃんもサスケもわかんねえって言ってたけど、カカシ先生があれはイルカ先生だって」
「・・・まあアカデミーの校庭なら俺が居ても不思議じゃないな」
「普通、見えねえよなー。しかもカカシ先生それまで寝てたんだぜ?なんでイルカ先生がわるんだっての!でさ、でさ!俺が聞いたらさ、カカシ先生ってばさ、

『イルカ先生ってさー、天使みたいじゃない?居るだけで周りが明るくなるっていうか神々しいっていうか。
 すごい良い匂いもするし。わからないわけないよ。こんなに近くに居るってのに』

 って言ったんだって!」

「・・・・・・・・・・・・・」

「わかんねぇだろ?!なんでイルカ先生が神々しいんだ?」
そんなの俺が聞きたい。
「良い匂いもしねーし!ギャハハ、先生ラーメンくせえ!!」
ナルトがふんがふんがと鼻を鳴らして匂いを嗅いだ。
俺もつい二の腕をあげて自分の匂いを確かめてみる。
おお、確かに豚骨くさい。良い匂いじゃないな。いや、豚骨の匂いは自体は良いのだ。
けれど、体臭が豚骨というのは決して良い匂いとは言えないだろう。
「おまえだって醤油くさいぞ」
「ワハハ!俺、醤油ラーメンばっか食ってっからなー!」
「ワハハハ!って、おい!おまえこの育ち盛りの大切な時期にラーメンばっか食うなよ?ちゃんと野菜食ってるか?」
「えーーー?エヘヘヘヘ」
ナルトは笑って誤魔化した。

 

(天使、か)
ナルトと別れ自宅へ帰りながら、さっきの会話を思い出した。
(俺のどこを見て天使などと思うのだろう)
とてもじゃないが理解できない。
俺の容姿は自分で言うのもなんだが良く言って十人並だ。生まれてこの方美しいなどと言われたことはなかった。
俺じゃなくても大抵の男は美しいと言われることはないと思うが。
容姿だけじゃなく。
忍としての能力も頭も、まあ並だろう。これと言った特技があるわけではない。
(わからん)
もちろん良い匂いもしない。
神々しいなどと有るはずもない。せいぜい油で顔がテカるぐらいだ。
ナルトが嘘を言っているとは思えないが、やはり先ほどの話は信じられなかった。
(カカシ先生に担がれたのかもしれないな)
そう思いもする。
どこか飄々として掴み所のないところがある人だ。
なんとなく、ナルトをからかってみたくなったのかもしれない。
でも。
そうじゃないかもしれなかったら。
もしかして、本気で俺を天使のようだなどと勘違いしていたとしたら・・・・。

「・・・・あ、ありえん!それはねえぞ!ねえったらねえ!!」

恐ろしい考えに思わず首を振った。
心臓が嫌な具合にドキドキとする。
(大丈夫だ、あれはきっとカカシ先生なりの冗談だ。上忍級のジョークだ)
下忍のナルトにはちょっとわかりにくかっただけで・・・・。
カカシ先生の天使発言に子供達が固まる場が容易に想像できる。
さぞや寒かったことだろう、可哀想に。
(カカシ先生も人が悪いなぁ!)
あの無表情で冗談言ったって冗談とは思えませんよ。
あ、それを狙ったのか?
さすがは策士・・・

「イルカ先生」

考え事をしていたので、何時の間にか自宅を通り過ぎようとしていたこともカカシ先生が玄関の前に居たことも気づかなかった。
驚いて顔を上げるとカカシ先生が不思議そうな顔で俺の方を伺っている。
「・・・カ、カカシ先生!こんばんは!!」
「はい、こんばんは。どうか、されたんですか?」
「へ?あ!あー、ちょっと考え事をですね・・・」
「先生、無視して通りすぎるもんだから吃驚しちゃいましたよ」
「アワワ…、す、すいません!失礼なことを!!」
「あーまぁ、それはいいんですけど・・・・」
言いながらカカシ先生がちょいちょいと指先を動かし俺を呼んだ。
「?」
側に寄るとグイと腕を引っ張られた。
「やっと会えたのに、そんな離れたとこに居ないで下さい」
額がくっつきそうなほど顔を寄せてカカシ先生が口布を下ろしながらそんなことを言う。
(アワワワワワワ・・・・・ッ!!!)
俺はアパートの安っぽい外灯の下で露にされたカカシ先生の素顔に思わず赤面してしまった。
カカシ先生の顔とてつもなく整っている。
まるで一昔前の少女漫画のヒーローのようだ。
銀色でわかりにくいがバサバサと長い睫、はっきりとした二重、切れあがった目尻、スっと通る鼻梁、形の良い唇。
最初見た時は「こんな顔の男が居るのか?!」と度肝を抜かれた。
しかも普段は寡黙で表情をあまり出さない。
そんな男が目の前で、自分には一生縁がなかったような事を言う。
これで照れないわけがない。
しかも俺はカカシ先生に惚れているのだ。
はっきり言ってカカシ先生の顔と言葉は恥ずかしすぎ・・・・

(ギョ!)

なんとか口に出さずに済んだが、あ、と思った時にはカカシ先生にキスをされてしまっていた。
目を瞑る暇などなかったので、カカシ先生の閉じられた瞼がよく見える。
(・・・ほんと睫ながいよな)
きっと、美しいとはこういう人のことを言うのだろう。
キスをされていることを一瞬忘れ思わず見入ってしまう。
カカシ先生の瞼は薄く開き俺を捕らえた。
深い青の瞳は、近過ぎて何を見ているのかわからない。
「・・・ぁ」
チュっと軽い音がしてカカシ先生が僅かに離れた。
「イルカ先生のスケベ」
「へ?・・・あ・・・」
「悪趣味ですよ、目を閉じて」
言われてやっと自覚した。
恥ずかしい。
自分に口付ける男に見惚れるなど。
申し訳ないやら恥ずかしいやらでシドロモドロしているとまたカカシ先生の顔が近づいてきた。
からかいの混じった目尻にハっと我にかえった。
「カ、カカシ先生!あの・・・」
「なに?」
「こ、ここ!まだ外ですから!すいません!あの、とりあえず中に・・・っ」
「いいの?」
途端に真顔で返された。
その顔にギクリと背が強張る。
(・・・そういう、ことになるのか)
こんな時間に、恋人を家に上げるということは即ち・・・。
「や・・・・その・・・・・。・・・・・・ど、どうぞ」
まるで気圧されるように、俺は自宅へとカカシ先生を招き入れた。

俺とカカシ先生はまだしていない。
付き合い始めて3ヶ月になるが未だにカカシ先生とセックスをしていない、というか出来ていない。
するのが嫌なわけじゃなかった。
現に何度か求められ、それに応じようとした。
男同士の性交は経験はないがどういうものかぐらい知っている。
仲間内でもそういう話がないわけじゃない。
意外に経験している奴も多い。特に戦場では。
出来ない行為ではないのだ。痛かろうが辛かろうが、不可能な行為ではない。
だが俺は、出来なかった。
(なんでかなぁ)
俺だって、したい、と思う。
カカシ先生に触りたい、抱き合いたいと思う。
カカシ先生に「付き合って欲しい」と言われた時はそりゃあ驚いた。
それまで俺はカカシ先生をそういう対象で見たことがなかった。
何かの冗談かと思ったが、いつも柔和なカカシ先生が怖い程真剣に俺を見るので、疑うことは出来なかった。
俺はいたってノーマルなつもりだったが、カカシ先生の告白を退けることは出来なかった。

「あんたが好き」

その簡単な言葉を拾いあげなくてはと思ってしまった。

そんな感じで付き合い始めたので、やはり男同士ということに覚悟が足りなかったのかもしれない。
初めて求められた日、緊張したものの拒否するつもりはなかった。
どうしていいかわからずオタオタしてしまったが、ここはカカシ先生にまかせて「よっしゃ来い!」ぐらいの気構えはあった。
だが、いざ圧し掛かられた途端、どうしようもない感情に襲われた。
恐怖。
言葉で表すなら、そう言えるような、呼吸すら出来ない感覚。背中が粟立ち、心臓がしめつけらるような感覚。
逃げたくて体が暴れた。
けれどそれをするとカカシ先生が傷つくだろうと、なんとか押しとどめようとしたら体が勝手に震えだした。
カカシ先生はそんな俺を見て、ひどく驚いた顔をした。
それから、一瞬、辛そうに目を落とした。
ますます俺はどうしていいかわからなくなった。
謝ろうとしたが、歯の根は噛み合わずガチガチと鳴るばかりで、言葉は出てきてくれない。
なので、震える体を起こし頭を下げた。
カカシ先生は驚いて慌てて言い募った。

謝らないでください。あんたが悪いんじゃない。俺が急ぎすぎたから。ごめんね。顔を上げて。謝らないで。

優しい甘やかすような言葉にますます申し訳なく思った。
けれども、ホっとしたのも事実だった。

「何か食べますか?」
とりあえず居間に座ってもらってお茶を出した。カカシ先生も慣れたようにいつもの定位置で胡坐をかいている。
俺が尋ねると、露になった両目を「ん?」とあげた。
「どうしよう。腹が減ってないこともないんですけど。イルカ先生はもうご飯食べたでしょ?」
「あ、はい。さっきナルトと一楽に・・・」
なんとなく、悪かったかなと思った。
カカシ先生はいつから家の前で俺を待っていたのだろうか。
けれどカカシ先生は咎めることもなく、目を細めて笑った。
「だと思いました。イルカ先生から一楽の匂いがするもの」
言いながら、すいと鼻を寄せてくる。その仕草にカっと頬が熱くなる。
さっきのナルトの言葉が蘇る。
『天使みたいだって』『良い匂いがする』
「すすすす、すいません!」
居たたまれなくなり、つい謝ってしまった。これ以上ラーメン臭を匂わせないよう体を離そうとしたが、逆に引き寄せられてしまう。
「どうして謝るんですか?」
クスクスと面白がるようにカカシ先生が笑う。
「すごく良い匂いなのに。美味しそう」
「やっ、あ、豚骨くさいでしょう!俺豚骨ラーメン食ったから!」
密着する体に急速に体温が集まり始める。
ヤバイ。
このままじゃ勃ちかねない。
セックスを出来ていないくせに、したがるとは何事かと思う。
土壇場になりいつも及び腰になっているのは自分だ。
けれど、どうもカカシ先生とひっつくと、こう・・・ヤバイ。
催眠術にでもかかったように体がボウっとなる。
ああ、なんだってんだ。
慌てて絡まってくる腕を解こうとした。浅ましい人間だと思われたくない。
「やっぱり!お腹減ってるでしょう?!俺、すぐ作りますから・・・!」
「んー」
少し、体は離れたものの、カカシ先生は俺の手首を握ったままで少し考え込むように視線を横に流した。
「俺としてはね」
「は、はい!何が食いたいですか?!そんな大したものは出来ないですが・・・」
「うん。そうじゃなくて。俺はね、イルカ先生。あんたとしたいです」
流れた視線が再び俺へ戻る。
その視線に背が強張る。
笑ってくるくせに、ちっとも笑っていない目の奥の光。
鋭くまるで射抜くような力を目の奥に潜め、俺を見る。
「さっき、俺聞きました。あがっていいの?って。あんた、わかってるでしょう」
「・・・そ、う、ですけど・・・」
わかってる。わかってるさ。
セックスを促されたのだ。俺はそれに頷いたのだ。
俺だってカカシ先生としたいと思う。
怯んでいる場合じゃない。いくら優しい人でも、そう何ヶ月も体の交わりを絶てる程、若い男の体は出来ちゃいない。
今日こそは。
毎日そう思っているのは本当だ。
いつも覚悟を決めているつもりだ。

けれど。

「イルカ」

呼ばれるその声は、やはり俺を怖がらせる。
俺は緊張に乾く喉を一度慣らし、ようやっとカカシ先生に言った。
「風呂に入ってきます」
「いや、いいよ。そのままで」
良くねぇって!!
俺、今豚骨臭だよ!そりゃ体あらった所で中年に片足突っ込んだ男の体臭が良くなるとは思わないが、豚骨よりはマシ(なはず)。
ブンブンと手を振って手首に絡まる指を離そうとした。
カカシ先生は、クスクス笑った。
(あ、引っ込んだ)
あの獰猛とも言える、目の奥の光が消えた。
安心し、体の力が抜けると、再び引き寄せられ手首に軽いキスを贈られた。
「嘘。いいよ、行ってきて。俺もイルカ先生の後使わせてもらいます」


(余裕だよな)
熱い湯を頭にぶっかけながら、しみじみ思った。
先ほどの態度もそうだが、カカシ先生はいつも余裕綽々だった。
求められそれに今だ応じることの出来ない俺を、カカシ先生は根気よく誘ってくれる。
出来た男だ。
(淡白な性質なのか?)
己自身充分に昂ぶっていても、カカシ先生は俺が怖がるとやめてくれる。
普通無理だろ。
出さなきゃ収まらないよな。それかよっぽど萎えることがあるか。
俺の震える様はカカシ先生を萎えさせるに充分な威力があるのか?
それもあり得る話だ。ゴツゴツした色気のない体を縮こまらせて震える男は、見ていて気持ちいものじゃないに違いない。
けれど、カカシ先生はそれにめげず誘ってくる。
何より、俺と離れた後は風呂に行くので、一人で抜いてるのだろう。(俺は恐怖に萎えてしまうのでその必要はない)
俺はいつもカカシ先生の居なくなった布団の上で自己嫌悪に浸るのだ。
もうあんな思いは嫌だと思う。
自分を責め、胃の締め付けられるような感覚、泣き出してしまいそうになる不安。
年甲斐もなくとまた思えば思うほど、情けなくなる。
何より、カカシ先生に申し訳ない。
いつも、穏やかな男。
どうしてだろうと思う。
どうしてカカシ先生は俺などを好きになったのだろう。俺などにそんな欲望を持ってしまったのだろう。
ふと、自分の体が目に入った。
俺はあまり体格の良いほうではない。着膨れする性質なので誤解されがちだが、俺は結構みっともない体をしている。
「もうちょっと筋肉つかねーかなぁ」
それなりにトレーニングを積んでいるつもりだが、骨格が悪いのか、うまく筋肉がついてくれない。
最悪トレーニングのせいで逆に痩せたりする。
ガイ先生みたいなのはほんとに憧れる。
あの太い腿、頑丈な首周り、鋼のような胸板、こんな肉体を持てばさぞかし人生楽しかろう。
ガイ先生がいつも朗らかに笑っているのもわかる。
「・・・ぉし!」
けれど、今更そんなことを言ってもどうしようもない。
今夜こそキめるのだ。
蛇口を捻り水を桶に溜め、それを勢いよく被った。

 

しかし緊張する。
カカシ先生が入れ違いに風呂に入った後、ちゃぶ台をどかし布団を敷いた。
その上に正座をし、いざ待つ体勢になると、異様に緊張した。
カカシ先生の風呂はカラスの行水だ。すぐに出てくる。
「イルカ先生」
途端にカカシ先生の声が真後ろでした。
「ギャ!!」
心臓が口から出そうになる。いつの間に後ろに居たんだ?!忍びよらないでくれ!!
そういうことを言ってやろうと振り向いた。
「・・・ん!」
言葉が出ないうちに唇を塞がれた。
カカシ先生は俺の後ろ髪を引っ張るように上を向かせ顎を固定した。
ネットリと食むような口付けに頭は一瞬で真っ白になる。
顎を掴むカカシ先生の指の一部が喉をなぞる。
そんな僅かな刺激にすら、緊張に固くなった体はビクついてしまう。
(・・・怖がるな、怖いことじゃない)
モヤのかかったような頭の片隅で必死で自分を奮い立たせた。
唇を何度も何度も舌でなぞられる。
入れてくれと言わんばかりに。
何度も。
「・・・カシ、せんせっ」
酸素が足りず引き結んだ口が開くと、すかさずカカシ先生が舌を割り込ませた。
強引とも言える進入に、逃げようと舌を引っ込めるが、逃げ場などあるわけもなく、また強引に舌の根を吸われる。
クチャ、と。
淫猥な音がする。
(・・・なんでこんな気持ち良いんだろう)
呆然と考えた。
「好きです」
(え?)
ぼんやりと目を開けると、カカシ先生の双眸と目が合った。
瞬きすらせず、俺を見つめる色違いの瞳。綺麗としか言いようがない。
なのに。
その綺麗さは。
先ほどまで奥に潜めていた獰猛な光のせいだ。
獲物を見つけた肉食動物の決して逃がしはしないと語る、その鋭い光と一緒だ。
「カカシ先生?」
そんな目で見ないで欲しい。
その目は嫌だ。

怖い。

ギュっと目を瞑った。
今日こそはと思ったのだ。もう待たせては駄目だと。
あの目さえ見なければ、少しは恐怖も和らぐはずだ。
しかし、目を閉じれば、逆に生々しいほどの絡みつく空気を感じてしまった。
「ッヒ・・・!」
顎先を舐められ、布団へと肩を押しやられた。
抵抗する気のない体はそこに簡単に倒れこんだ。
すぐに唇が覆いかぶさってくる。吹きかけられる熱い息に、体の熱が急速に一点に集まるのがわかった。
忙しない手つきが股を這い上がってきた。
浴衣の裾を跳ねのけ、強引に足を割りその中にカカシ先生が割り込んでくる。
どうしようもなく恥ずかしい。
なんだこの格好。しかし冷静に考える暇なく、カカシ先生は俺のソコを掴んだ。
一瞬、急所を掴まれた恐怖に首が竦む。
「イタ・・・ッ」
声を漏らすとまた唇を与えられる。
舌を噛まれ唾液の鳴る音に体はグズグズと溶け出していく気がする。
「カカシせんせ・・・!」
緩くソコを扱かれると、男の体はどうしようもない。
持て余す熱がソコに集まり解放を求める。
「気持ちいい?」
低い声がからかい混じりに聞いてきた。
(そっ、そんなこと聞かなくてもわかるだろ?!)
あんた触ってるんだから俺がどういう状態か、むしろあんたの方がわかってるはずだ!
「・・・ん、なこと、聞かないでください・・・!」
喘ぎそうになる声を必死で押さえ、カカシ先生に抗議した。
(ぅ、わ・・・)
途端にグっと熱い塊が腿の付け根に押し当てられる。ヌルリとした感触に戦き背中が沿ってしまう。
仰け反った喉には舌が這わされる。
「あんまし、煽んないでよ」
苦しそうに声が胸元でする。
そのまま胸の飾りを齧られ、痛みが走った。
目を瞑っているせいで他の感覚が敏感になっているのか。些細な刺激すら辛い。
何度か噛まれ、普段は意識しないそこがジンジンと痺れはじめるのがわかる。
(嫌、だ)
女じゃあるまいし、そこを触られ感じることにたまらなく羞恥を感じる。
けれど、普段は優しい男は意地悪くそこを弄ってくる。
噛まれ痛みに硬くなるソコをあやす様に舐めあげる。
こんなことはしなくてもいい。
やるならさっさとやって欲しい。
「ィッ・・・!!」
前触れもなく、尻の間から鈍い痛みが駆け上った。
「力を抜いて」
耳元で囁かれる。思わず手を伸ばし、痛みから逃れようとカカシ先生の首にすがった。
「息を吐いて」
言われた通りに息を吐き出す。
「・・・ッ、ハ」
「そう、大丈夫。そのままゆっくり呼吸してて」
ハッハッと小刻みに吐かれる自分の息の音ばかりが耳の奥に響く。
「・・・早く・・・っ!」
鈍い痛みに腰が痺れる。一刻も早くこの痛みから逃れたかった。
一層カカシ先生の首に強く縋り付くと、小さく息を呑む音が聞こえた。
尻の中の異物感が増やされる。
痛みは更に酷くなった。
一応潤滑剤は使ってくれているのだろう。ヌルヌルとした感触が下半身を滑り落ちる。
それでもあまりの痛みに生理的な涙が滲んだ。
「イルカ先生、目を開けて」
目尻にキスを落としながら、カカシ先生が言う。
それは出来ないと俺は首を振った。
痛みに体は恐怖している。
今日は最後までするのだとあれ程自分に言い聞かせた。今更引くわけにはいかない。
もし、今あんたを見てしまったら、俺はまた逃げたくなってしまう。

「イルカ先生、お願い、目を開けて。俺を見て。あんたを欲しがる俺を見て」

それでも、まるで哀願のような声が降ってくる。何度も、何度も。
可哀相な程に。
ああ、と俺は覚悟を決めた。
ここで目を開けなきゃ男じゃない。好いた人にこんな悲しげな声を出させてはいけない。
もうここまで来たんだ。後はどんなに恐怖しようが、後戻りは出来ないさ。

「イルカ先生、俺がどんなにあんたを欲しがってるか、ちゃんと見て」

俺は恐る恐る目を開けた。怖気づくと困るので、顔を見ないように、目線を下に逸らせ・・・・

けれど、俺はやはり恐怖に戦いた。
視線を逸らした先に、俺の大きく開きかさせた足がある。その間には、

「ギ、ギィヤアァァァァァァ!!!!」

想像よりもずっとデカいカカシ先生のチンコがあった。
(こんなものが入るわけねえ!!)
一瞬で血の気の引いた俺は反射的に色気もへったくれもない声を上げ、カカシ先生の腹を蹴飛ばしてしまった。

 

 



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